路面凍結や視界不良といった冬特有の危険な道路状況を知る
冬のバイク走行において最も警戒しなければならないのは、路面の凍結です。特にブラックアイスバーンと呼ばれる現象は、アスファルトの表面が薄い氷の膜で覆われている状態であり、一見すると単に路面が濡れているだけのように見えるため、ベテランライダーでも発見が遅れることがあります。このブラックアイスバーンが発生しやすい場所は決まっており、橋の上やトンネルの出入り口、そして一日中日が当たらない山道のカーブなどが挙げられます。橋の上は地熱が伝わらないため上下から冷やされやすく、他の道路が乾いていても橋の上だけ凍結しているというケースが多々あります。もし冬のツーリング中に気温計が3度以下を示したら、いつ路面が凍結してもおかしくないと考えてペースを落とす必要があります。また、マンホールの蓋や白線の上も、アスファルト部分に比べて非常に滑りやすくなっているため、車体を傾けた状態でこれらに乗らないようなライン取りを意識することが大切です。
さらに冬場は視界の確保も難しくなります。外気温が低くヘルメット内部が体温や呼気で温かい状態になると、その温度差によってシールドの内側が結露し、瞬く間に真っ白に曇ってしまいます。走行中に視界が遮られることは致命的な事故につながるため、シールドが曇らないように対策を講じることは防寒着を着ることと同じくらい重要です。ピンロックシートと呼ばれる二重構造を作るシートを装着したり、市販の曇り止めケミカルを塗布したりすることで対策しましょう。加えて、冬の太陽は夏に比べて位置が低いため、日中でも逆光になりやすく、直射日光が目に入りやすくなります。路面の反射も強くなるため、スモークシールドやサングラスを用意するなどして、眩しさで前が見えなくなるリスクを回避することも安全運転のための重要なポイントとなります。
気温低下によるバイクの性能変化とタイヤのグリップ力
人間が寒さで動きが鈍くなるのと同様に、バイクという機械もまた低温下ではその性能が大きく変化します。最も顕著なのがタイヤのグリップ力の低下です。バイクのタイヤはゴムでできており、走行による摩擦熱で適度に温まることで柔軟性を持ち、路面に食いつくようにグリップ力を発揮するよう設計されています。しかし、冬場の冷え切った路面ではタイヤのゴムが硬化してしまい、本来の性能を全く発揮できません。特に朝一番の走り出しや休憩直後はタイヤが冷え切っているため、夏場と同じ感覚で交差点を曲がったりブレーキをかけたりすると、簡単にスリップして転倒してしまう恐れがあります。冬場はいきなりスピードを出すのではなく、タイヤを揉むようにゆっくりと加減速を繰り返しながら、徐々にタイヤの温度を上げていく慎重なライディングが求められます。
また、バッテリーも寒さに弱いパーツの一つです。気温が下がるとバッテリー内部の化学反応が鈍くなり、電気を溜め込む能力や出力する力が低下します。さらにエンジンオイルも低温で硬くなり粘度が増すため、エンジンの始動に必要な力が普段以上に大きくなります。弱ったバッテリーで硬いオイルの入ったエンジンを回そうとするため、冬の朝はエンジンがかかりにくくなるのです。最近のバイクはインジェクション車が多いため比較的かかりやすいですが、それでもバッテリーへの負担は大きいため、定期的に補充電を行ったり、長時間乗らない場合はマイナス端子を外しておくなどの対策が有効です。エンジンがかかった後も、すぐに走り出すのではなく、オイルが温まって循環するまで十分に暖機運転を行うことで、エンジンの寿命を延ばし、スムーズな走行が可能になります。
体温を奪われないための効果的なウェア選びと体調管理
冬の寒風の中を時速数十キロで走行すると、体感温度は氷点下を大きく下回ります。寒さで体が震えたり手足がかじかんだりすると、ブレーキやクラッチの操作が遅れ、判断力も鈍るため、防寒対策は単なる快適性の問題ではなく安全対策そのものです。効果的な防寒の基本は、首、手首、足首の3つの首を冷やさないことです。これらの部位は太い血管が皮膚の近くを通っているため、ここが冷えると冷たい血液が全身を巡り、体の芯から冷えてしまいます。ネックウォーマーで首元からの風の侵入を完全に防ぎ、袖口の長いグローブやリストガードで手首を覆い、厚手の靴下やブーツで足首を守ることで、全体の保温効果が格段に上がります。
ウェアの選び方においては、重ね着の工夫、いわゆるレイヤリングが重要です。いくら保温性の高いフリースやダウンを中に着込んでいても、一番外側に風を通す素材を着ていては、走行風によって熱がどんどん奪われてしまいます。一番外側のアウターには風を完全に遮断する防風素材を選び、中間着には空気を溜め込んで保温する素材を、そして肌に直接触れるインナーには汗を吸って発熱する機能性素材などを選ぶのが理想的です。また、最近では電気の力で強制的に体を温める電熱ウェアも普及しています。モバイルバッテリーや車体から電源を取ることで、こたつに入っているような暖かさを得ることができ、着ぶくれせずに高い防寒性能を発揮します。しかし、どんなに良い装備をしていても、長時間の走行は体力を消耗させます。夏場以上に休憩をこまめに取り、温かい飲み物で体を内側から温めたり、ストレッチをして固まった筋肉をほぐしたりすることで、集中力を維持して安全にツーリングを楽しむことができます。
